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「考える力を育てたい」「自分で答えを出せる子になってほしい」
――そう願う保護者の方は多いのではないでしょうか。

実は、この“考える力”の土台にあるのが、「具体」と「抽象」を行き来する思考力です。
社会で活躍する大人たちはみな、無意識のうちにこの“往復”をしています。

たとえば、
・ニュースで起きた事件を見て、「これは構造的な問題だな」と考える。
・仕事での失敗を、「原因はスキル不足ではなく、仕組みの問題かもしれない」と捉える。
こうした発想は、具体的な事実(具体)から本質(抽象)を見抜き、再び具体的な行動に落とす力によって生まれています。


「具体」と「抽象」とは?

まずは、用語を整理しておきましょう。

  • 具体(Concrete)
     見える・触れる・体験できること。実際の事例や現象など。
     例:「リンゴが赤い」「猫が寝ている」「テストで80点だった」。
  • 抽象(Abstract)
     複数の具体をまとめて導かれる共通点・原理・法則・概念。
     例:「果物」「哺乳類」「努力と成果の関係」。

「猫」「犬」「ウサギ」→「哺乳類」とまとめるのが抽象化。
逆に「哺乳類」→「人間」「コウモリ」「クジラ」と例を出すのが具体化です。

この「具体⇔抽象」の行き来を繰り返すことを、“具体⇔抽象トレーニング”と呼びます。
つまり、“考える筋トレ”なのです。


なぜ、このトレーニングが良いのか

1. 脳科学:抽象的思考は「前頭前野」が司る

抽象的な推論や概念操作は、脳の中でも最も高次な領域である前頭前野が担っています。
この部分は10代後半まで発達が続き、経験や学習によって強化されることがわかっています。
具体的な経験を通して抽象的な理解を積み重ねることで、脳の柔軟性・論理力・創造性が育つのです。


2. 教育心理学:「具体から抽象へ」の学びが理解を深める

教育研究では、「concreteness fading(具体性のゆるやかな抽象化)」という概念があります。
最初は具体例を使って学び、徐々に抽象化していく方が、理解が深まり、応用力も高まるというものです。
また、「Cognitive Acceleration(認知加速)」という実践プログラムでは、
具体思考から抽象思考への移行を促すことで、子どもの論理的思考を高める効果が確認されています。


3. 研究から見える効果のまとめ

効果領域具体例・説明
理解の深まり表面的な知識でなく、「なぜそうなるか」を自分で考えられるようになる。
発想・応用力の向上原理を抽象化して他分野に転用できる。アイデアが広がる。
問題解決力の向上問題の“構造”を見抜けるため、根本から解決しやすい。
説明・コミュニケーション力相手の理解度に応じて、具体例と抽象概念を使い分けられる。
メタ認知・自律性「自分はいま、どのレベルで考えているのか」を意識できる。

家庭でできる「具体⇔抽象トレーニング」

家庭での会話や遊びの中に、実は「具体⇔抽象トレーニング」のチャンスはたくさんあります。
ここでは、子どもの年齢や性格に関係なく、無理なくできる方法を紹介します。

ポイントはたった3つ。

  1. 「なぜ?」「たとえば?」と問いかける
  2. 「体験→言葉→行動」の順で考える
  3. 正解を求めず、「考えること」を楽しむ

1. 共通点を探すゲーム(抽象化の第一歩)

子どもが大好きな「仲間探し」や「しりとり」も、実は抽象化の練習になります。

■ 遊び方

  1. 身の回りのものを3つ出します(例:「りんご」「バナナ」「くるま」)。
  2. 子どもに質問します。
     👉「どれが仲間かな?」
     👉「なんでそう思う?」
  3. 子どもが「りんごとバナナは食べ物」と言えたら大成功!

■ ねらい

共通点(=抽象化)を見つける力を育てます。
最初は形や色といった見た目の共通点でOK。慣れてきたら「使う場所」「役割」「気持ち」などの抽象的な共通点にも広げましょう。

親の声かけ例

「似てるところはどこかな?」
「違うところは?」
「この2つを一言で言うと、なんて言えるかな?」


2. WHY/HOWで会話を広げる(思考の往復)

「なぜ?」と「どうやって?」を交互に使うだけで、家庭で思考がどんどん深まります。

■ 例1:日常会話で

子「今日の体育で転んじゃった」
親「そうだったんだ。なんで転んだと思う?」(WHY=抽象)
子「よそ見してた」
親「じゃあ次はどうすればいいと思う?」(HOW=具体)

■ 例2:ニュースや絵本でも

親「このお話って、何を伝えたいんだろうね?」
子「うそをついたらダメってことかな」
親「なるほど。じゃあ、学校で似たようなことってある?」

こうして具体と抽象を行き来する会話が、まさに「思考の筋トレ」になります。


3. “見える思考”をつくる(図解・マインドマップ)

頭の中だけで考えるのが難しい子には、紙に書く・描くことで思考を「見える化」してあげましょう。

■ やり方

  1. 紙の真ん中にテーマを書く(例:「夏休み」)。
  2. 周りに関連する言葉をどんどん書く(「海」「宿題」「家族旅行」など)。
  3. それをグループ化しながら、「これってまとめると何だろう?」と考える。

💬 声かけ例

「この3つって似てない?」「どんな言葉でまとめられるかな?」
「このグループにはどんな特徴がある?」

抽象化を“図で操作する”ことで、頭の中の整理力が一気に高まります。


4. 絵本・映画・アニメを使って「教訓」を考える

物語には、抽象化の素材がたっぷり詰まっています。
ストーリーを読む→内容をまとめる→学んだことを言葉にする、これが立派な抽象トレーニングです。

■ 例

『桃太郎』を読んだあとに、

「このお話って、どんなことを伝えたかったと思う?」
「桃太郎はなんで仲間を集めたの?」
「君だったらどうする?」

子どもが「助け合うことの大切さ」などを言えたら、それが“抽象化”です。
さらに、「じゃあクラスでも助け合いってある?」と日常へ“具体化”して戻すと完璧です。


5. 家庭の出来事を“教材”にする

特別な準備はいりません。
家庭で起こる小さな出来事がすべて教材になります。

■ 例1:料理中に

「お湯を沸かすって、どんなときにするんだろう?」
→「カップラーメン作るとき」「スープ作るとき」
→「つまり“温めたいとき”だね!」

■ 例2:掃除中に

「なんで掃除するの?」
→「汚れるから」
→「汚れたままだとどうなる?」
→「気持ち悪いし、虫が出る」
→「じゃあ“掃除”って、何のための行動?」
→「快適に過ごすため!」

このように、日常の中で“意味づけ(抽象化)→行動(具体化)”をつなぐと、
子どもの中で「行動=目的をもったもの」という認識が育ちます。


6. 家族で“たとえ話”ゲームをしてみる

「たとえ話」は、抽象→具体への翻訳練習です。
子どもが好きなテーマ(ゲーム・動物・食べ物など)を使うと盛り上がります。

■ 例

  • 「勉強って何に似てる?」→「ポケモンのレベル上げ!」
  • 「友情って?」→「Wi-Fiみたい。つながると強くなる!」

笑いながら発想することで、概念をイメージでとらえる力が伸びます。


7. 「思考ノート」をつくる(1日5分の習慣)

ノートに1日1問、「考える質問」を書いて、親子で答え合うのもおすすめです。

■ 例題集

  • 「がんばるって、どういうこと?」
  • 「正直って、いつ大事?」
  • 「ルールって、なぜあるの?」
  • 「人に優しくするって、どんな行動?」

絵や文字、シールを使ってもOK。
書く・話す・聞くを繰り返すことで、言葉の裏にある“考え”をつかむ力が身につきます。


家庭トレーニングを成功させる3つのコツ

コツ内容
① 「正解探し」にしない答えより“考える過程”を大切にする。どんな意見も「なるほど!」で受け止める。
② 「考えを言葉にする」子どもが話した内容を言葉でまとめ返してあげると、整理力が育つ。
③ 「親も一緒に考える」親が答えを持たず、一緒に考える姿勢を見せると、子どもも安心して思考を楽しめる。

まとめ:家庭こそ“思考力のジム”

具体⇔抽象トレーニングは、特別な教材がなくても家庭でできます。
おしゃべり・家事・絵本――日常のすべてが「思考の素材」です。

「なぜ?」「たとえば?」「どう思う?」
この3つの質問を意識するだけで、家庭が“考える力を育てる場所”になります。


🔖最後に

子どもが「うまく答えられない」ときも焦らずOK。
大事なのは、“考えることを楽しいと思える雰囲気”です。

今日の会話の中に、
ひとつでも「なぜ?」を足してみてください。
それが、思考を育てる最初の一歩です。

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