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ネガティブな考えに飲み込まれないために——支援者のための認知行動療法セルフケア入門

窓辺で綴る支援者のセルフケア

2026年10月29日 · @kazuyuki fukushima

支援する大人にも、こころのケアが必要です

「また子どもを叱りすぎた。自分は親として失格だ」「今日の支援はうまくいかなかった。どうせ自分には向いていない」。子育てや支援の現場で、こうした考えが頭をよぎることは珍しくありません。

このような考え方のクセは、発達特性の有無にかかわらず誰にでも起こります。そして、考えにとらわれたままでいると、気持ちがつらくなり、子どもとの関わりにも余裕がなくなっていきます。

このコラムでは、厚生労働省や国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が公開している資料をもとに、認知行動療法の考え方を使ったセルフケアを紹介します。子どもを支える保護者の方、スタッフの方が、自分自身をいたわるための一つの方法として読んでいただければ幸いです。

認知行動療法(CBT)とは

認知行動療法は、極端な考えや行動を修正することで、うつ病などの精神疾患を治療するために開発された心理療法です。効果が実証されており、世界的に使われています。近年は、その考え方に基づく「認知行動変容アプローチ」がストレス対処にも役立つことがわかり、職場や学校など医療以外の場面でも使われています(厚生労働省「こころの耳」)。

考え・感情・からだ・行動はつながっている

CBTでは、出来事があったときの自分の反応を「考え(認知)」「感情」「身体反応」「行動」の4つに分けて見ます。この4つは互いに影響し合っています(NCNP セルフケアテキスト)。

子育ての場面に当てはめると、たとえば次のようになります。

出来事考え感情からだ行動
子どもが外出先でかんしゃくを起こした「周りに迷惑をかけた。私の育て方が悪い」恥ずかしさ、落ち込み顔が熱くなる、肩がこわばる強い口調で叱り、帰り道に黙り込む

ポイントは「自動思考」

感情が動いたとき、瞬間的に頭をよぎる考えを「自動思考」と呼びます。ほとんど意識されないまま浮かんで消えていくためです。

感情を意識的に変えることは難しくても、考えには働きかけることができます。CBTが考えに注目するのは、考えが変われば感情も変化しうるからです(厚生労働省「こころの耳」)。

自分でできる基本の手順:「6つのステップ」

NCNPのセルフケアテキストでは、つらい出来事があったときに、次の6段階で考えを整理する方法(6つのステップ)を紹介しています。紙とペンがあればすぐに始められます。

  1. 状況:気持ちが大きく揺れた場面を、写真を撮るように具体的に書きます。
  2. 気分:そのときの気分を一言で書き、強さを%で添えます(全く感じない=0%、最大=100%)。
  3. 自動思考:「どんな考えが浮かんだか」「何が心配になったか」を自分に問い、そのまま書きます。
  4. 適応的思考:本当にそうなのか、見落としている事実はないかを見直し、バランスのとれた考えを書きます。
  5. 気分の変化:2の気分が何%に変わったかを書きます。
  6. 工夫:これからできること、やってみたいことを書きます。

テキストでは、気分が大きく改善しなくても、今後の対応策や行動プランを思いつければ成功だとしています。

記入例(子育ての場面)

段階記入例
1 状況夕食前、宿題をしない子どもに大声で怒鳴った
2 気分自己嫌悪(85%)
3 自動思考「また怒鳴ってしまった。自分は親失格だ」
4 適応的思考「今日は怒鳴った。しかし、昨日は落ち着いて声をかけられた。疲れている日に余裕がなくなりやすいだけだ」
5 気分の変化自己嫌悪(50%)
6 工夫寝る前に子どもに一言謝る。疲れている日は宿題の声かけを夕食後にする

適応的思考が浮かばないときの3つの方法

NCNPのテキストでは、次の方法が紹介されています。

  • 事実に基づいて考える:その考えを裏付ける事実と、反対の事実の両方を挙げます。2つを「しかし…」でつなぐと、バランスのとれた考えが出やすくなります。
  • 視点を変える:「同じことで悩む友人に、自分なら何と声をかけるか」「元気なときの自分なら、どう見るか」と考えます。
  • 「認知のかたより」に注目する:次のような考え方のクセが入っていないかを確かめます。
認知のかたより内容子育て・支援での例
過度の一般化わずかな出来事から広い結論を出す一度うまくいかず「何をやってもダメ」
選択的注目良いことがあっても、ささいな悪いことに目が向くできたことより、できなかった1つが気になる
自己非難(個人化)必要以上に原因を自分に結びつけて責める子どもの不調をすべて自分のせいにする
0か100か思考白黒をつけたがり、完璧を求める「毎日穏やかに接せないなら意味がない」
感情的きめつけ証拠がないのに悪い結論を出す返信がないだけで「嫌われた」と思う

厚生労働省の資料も、「いつも」「絶対」「どうせ」といった決めつけ言葉に気づいたら、良いことも悪いことも起きている現実に目を向けるよう勧めています。

考えより先に、行動から整えることもできる

CBTには、考えを見直す方法のほかに、行動に働きかける「行動活性化」という方法もあります。やる気は待っていても出てこないため、楽しめることや達成感のある小さな行動から始め、気分の改善につなげる方法です。散歩、片付け、ゆっくりお風呂に入るといった日常的な行動の積み重ねが、こころを元気にするとされています(厚生労働省「こころの耳」)。

取り組むときの注意点

  • 無理にポジティブになろうとしない:目指すのは「良い考え」ではなく、事実に沿ったバランスのとれた考えです。厚生労働省の資料は、落ち込み・不安・怒りなどの感情を、危険を知らせる「こころセンサー」と説明しています。感じないようにするのではなく、立ち止まって何が起きているかを確かめる合図として扱います。
  • 考え方のクセがあるのは自分だけではない:認知のかたよりは多くの人に共通するもので、気分が落ち込んでいるときに特に強く出やすいとされています(NCNP)。クセを見つけても、自分を責める材料にしないでください。
  • つらいときは休むことも大切:NCNPのテキストは、落ち込みが強く意欲が低下しているときは休養も大事だとしています。少し元気が出てきてから、小さな行動を段階的に増やしていきます。
  • 少し調子が戻らなくても、悲観しすぎない:同テキストは、少しの悪化を破局的に考えないこと、早めに身近な人や主治医に相談することを挙げています。
  • 一人で抱え込まない:厚生労働省の資料も、悩んでいるときは信頼できる人に相談することを勧めています。話すだけで考えが整理されることもあります。スタッフの方は、同僚や管理者に話すことも選択肢です。

専門家への相談を考えたいとき

このコラムで紹介したのは、日常のストレスに対処するためのセルフケアです。もともと認知行動療法は、うつ病などを治療するための心理療法として開発されました。気分の落ち込みや不安が続き、睡眠や仕事、家事に影響が出ている場合は、一人で取り組み続けず、精神科・心療内科などの医療機関に相談してください。

相談先の例:

  • かかりつけ医、精神科・心療内科
  • こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556 電話をかけた地域の公的な相談機関につながります。受付時間は地域によって異なります(厚生労働省「まもろうよこころ」電話相談窓口)。
  • お住まいの地域の保健所・精神保健福祉センター
  • 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」(厚生労働省)

まとめ:まずは3行から

気持ちが大きく揺れたら、次の3行だけ書いてみてください。

  • 何があったか(状況)
  • 頭に浮かんだ言葉(自動思考)
  • 事実として確かめられること、別の見方(適応的思考)

子どもを支える大人が自分の気持ちを整えることは、子どもとの関わりの土台にもなります。完璧を目指さず、できるところから試してみてください。

参考資料

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